世帯分離で親の介護費用を抑えるために知っておきたい5つのこと
夫婦のお悩み解決コラム介護には、メンタル面や体力面をはじめ様々な悩みが付きものです。両親や義両親の介護であれば費用の面でも悩みをもっている場合も多いのではないでしょうか。
もし同居の両親を介護している場合は、世帯分離をするだけで介護費用を抑えられる可能性があります。もちろん世帯分離したからといって親子の縁を切るわけではありませんし、世帯分離した後でも同じ家に住み続けることは可能です。
介護される本人の収入・所得が同じでも、世帯分離している人としていない人で介護費用が大きく変わるケースも珍しくありません。
この記事でご紹介すること
世帯分離とはどんな制度?
住民票に登録されている1つの世帯を2つ以上の世帯に分けることを、世帯分離と呼びます。世帯分離をすると、同じ住所(家)に世帯主が2人いることになります。今回は、高齢の両親と同居している子育て世代を例に挙げてみましょう。
〈世帯分離前〉
世帯主…父(年金収入のみ)
世帯員…母(年金収入のみ)、長男(サラリーマン)、長男の妻(パート)、長男の子ども
〈世帯分離後〉
親世帯(世帯主…父、世帯員…母)
子世帯(世帯主…長男、世帯員…長男の妻、長男の子ども)
世帯分離をしても同じ家に住み続けることができますが、世帯分離後は各世帯主がそれぞれ独立した家計を営んでいる必要があります。
世帯分離によって介護費用が安くなる理由
介護にかかる費用のなかには、その世帯の合計所得が多いほど高くなるものが少なくありません。上の例では、世帯分離前の世帯の合計所得は両親の年金収入+長男の収入+長男の妻の収入となります。しかし、世帯分離をすると親世帯の合計所得は両親の年金収入のみとなります。そのため、世帯分離することで親の介護費用を抑えられるのです。
世帯分離によって抑えられる介護費用の計算例
高額な介護サービスを利用する場合、世帯分離によって大きなメリットを受けることができます。なお、各費用の払い戻しを受けるには所定の手続きが必要です。
高額介護サービス費
その世帯で1ヶ月に利用した介護サービスの合計額が自己負担限度額を超えると、差額分が高額介護サービス費として払い戻されます。自己負担限度額は、以下のように定められています。
利用者負担段階区分 | 自己負担限度額 |
現役並み所得者世帯
・世帯内に課税所得145万円以上の人がいる ・世帯内の65歳以上の人の収入合計が520万円以上(単身なら383万円以上) |
44,400円(世帯全員分の合計) |
一般世帯
・現役並み所得者世帯に該当しない ・世帯内に市区町村民税を課税されている人がいる |
44,400円(世帯全員分の合計)
※ただし1割負担の被保険者のみの世帯で年間自己負担額が合計446,400円を超えた場合、その差額が支給される |
市区町村民税非課税世帯
・世帯内に市区町村民税を課税されている人がいない |
24,600円(世帯全員分の合計) |
市区町村民税非課税世帯
・世帯内に市区町村民税を課税されている人がいない |
24,600円(世帯全員分の合計) |
・市区町村民税非課税世帯で、かつ老齢福祉年金の受給者
・前年の合計所得金額と課税年金収入額の合計が年間80万円以下の人 |
15,000円(個人にかかった額の合計) |
・生活保護受給者(利用者負担を15,000円に減額すると生活保護受給資格を満たさなくなる人も含む)
・中国残留邦人等支援給付の受給者 |
15,000円(個人にかかった額の合計) |
先ほどの例では、世帯分離をしなければ現役並み世帯となります。したがって、支払った介護サービス費が合計44,400円を超えなければ差額が払い戻されません。
しかし世帯分離によって親世帯が市町村民税非課税世帯となった場合は、支払った介護サービス費が合計24,600円を超えれば差額が払い戻されます。
入院・入所中の食費や居住費
介護療養型病院や介護施設に入院・入所する場合、入院・入所中にかかる食費や居住費などの自己負担額は世帯年収や預貯金額に応じて決められます。自己負担限度額を超える費用を支払った場合、差額が後で払い戻されます。例えば、介護老人福祉施設(特別用語老人ホーム)や短期入所生活介護(ショートステイ)を利用する場合の自己負担限度額は以下の通りです。
1日の基準費用額
(第4段階) |
1日の自己負担限度額 | |||
第1段階 | 第2段階 | 第3段階 | ||
食費 | 1,380円 | 300円 | 390円 | 650円 |
ユニット型個室利用料 | 1,970円 | 820円 | 820円 | 1,310円 |
ユニット型個室的多床室利用料 | 1,640円 | 490円 | 490円 | 1,310円 |
従来型個室利用料 | 1,150円 | 320円 | 420円 | 820円 |
多床室利用料 | 840円 | 0円 | 370円 | 370円 |
・第1段階…世帯全員が市区町村民税非課税かつ老齢福祉年金受給者、生活保護受給者など
・第2段階…世帯全員が市区町村民税非課税で、公的年金収入+所得合計が80万円以下
・第3段階…世帯全員が市区町村民税非課税で、公的年金収入+所得合計が80万円を超える
・第4段階…市区町村民税課税世帯
例えば7日間のショートステイでユニット型個室を利用した場合、第4段階では食費(1,380円×7日分=9,660円)と個室利用料(1,970円×7日分=13,790円)の合計額は基準費用額の23,450円となります。
しかし第2段階の場合は食費(390×7日分=2,730円)と個室利用料(820円×7日分=5,740円)の自己負担合計額が8,470円となり、基準額との差額14,980円が払い戻されます。
その他、世帯分離によって抑えられる諸費用
世帯分離によって世帯の所得を減らすことで、保険料や医療費を抑えることもできます。外部の介護サービスより自宅介護がメインとなる場合も、世帯分離によって出費を抑えられるケースが少なくありません。
国民健康保険料など
以下の保険料の負担額は、本人や世帯の所得をもとに計算されます。世帯分離によって世帯の所得を減らすことで、支払額を抑えることができます。
・国民健康保険
・後期高齢者医療保険(75歳以上の人はすべて加入)
・介護保険(65歳以上の人はすべて第1号被保険者となる)
ただし国民健康保険の場合は例外があるので(詳しくは後述します)、事前によく確認しましょう。実際の支払額や計算方法は各自治体によって異なるので、詳しくはお住まいの自治体HPをご覧ください。
高額療養費
高額療養費制度は、その月にかかった医療費の自己負担額が大きい場合に差額が払い戻される制度です。世帯分離によって所得を減らすことで、自己負担限度額を下げられる場合があります。高額療養費の計算方法などについては、以下のリンク先をご参照ください。
世帯分離のデメリット
本人や世帯の所得状況によっては、世帯分離によって負担が増えてしまうこともあります。
国民健康保険料負担額が増えることがある
世帯分離をすることで、それぞれの世帯主が別々に保険料を支払わなければならなくなります。親も高所得である場合、世帯分離後の合計負担額がかえって増えてしまうことがあります。
親を扶養に入れられなくなる
子世帯が会社の健康保険に入っているサラリーマン世帯の場合、世帯分離すると親を扶養に入れられなくなります。親を扶養に入れて扶養控除や会社の組合制度を利用したほうがお得な場合は、世帯分離は避けたほうがよいでしょう。
介護費用を合算できない
同一世帯に複数の要介護者がいれば介護費用を合算して払い戻しを申請できますが、世帯分離するとそれができなくなります。子世帯に介護が必要な障がい者の方がいる場合などは、世帯分離しないほうがよいこともあります。
住民票取得などの手続きが面倒になることがある
世帯分離すると、子世帯の住民票などを親に取ってきてもらうときにわざわざ委任状を準備しなければならなくなります。
世帯分離の手続きの流れ
世帯分離の手続き自体は、それほど複雑ではありません。世帯分離を行った日から14日以内に、手続きを行いましょう。
届け先
世帯分離の手続きは、住所がある市区町村の窓口で行うことができます。窓口で世帯分離届(住民異動届)をもらって必要事項を記入し、印鑑を捺して提出します。また、必要に応じて新しい国民健康保険証を発行してもらいます。
提出物
届出に行くときは、以下のものを持参しましょう。詳しくは、自治体HPなどで確認してください。
・窓口で手続きする人の本人確認書類(運転免許証・パスポート・マイナンバーカードなど)
・印鑑
・国民健康保険被保険者証や後期高齢者医療被保険者証(持っている人のみ)
・国民年金を支払うための通帳またはキャッシュカード(該当する人のみ)
世帯分離を行う理由を聞かれたら?
原則として、自治体側が届出を拒否することはできません。しかし、中には「介護費用を減らすための世帯分離を断られた」というケースもあるようです。世帯分離によって介護費用の自己負担を抑えると、結果的に国が受け取るお金が減ってしまいます。そのため、窓口担当者の中には介護費用を抑えるための世帯分離をよく思わない人もいるようです。
ただしその場合でも原則は変わりませので、別の担当者と話をしてみる、上司の方と話したいと伝えてみるとよいでしょう。また理由を聞かれた場合も、事実を端的に伝えるようにしましょう。
委任状で申請の委任は可能?
世帯分離届の申立人は、世帯分離する世帯の世帯主または世帯員となります。世帯主や世帯員の都合が悪ければ、委任状(代理人選任届)を預かった代理人が申請することもできます。
法定代理人が手続きを行う場合、自治体によっては委任状の代わりに法定代理人であることを確認できる書類(戸籍謄本、登記事項証明書など)が必要になることもあります。
世帯分離したあとで元に戻せる?
世帯分離した後で、分離した世帯をひとつに戻すことも可能です。その場合は窓口で世帯合併届(住民異動届)をもらい、必要箇所を記入して提出しましょう。
国の制度を使って、介護にかかる費用を抑えよう
親と同居している世帯で世帯分離をすると、それまで合算されていた世帯全員分の所得を親世帯・子世帯に振り分けることができます。今回ご紹介した介護サービス費用や保険料・医療費負担額は本人または世帯の所得によって変わるので、世帯分離によって介護費用を抑えることができます。ただし所得状況によっては世帯分離によって逆に負担が増えることがあるので、事前によく確認しましょう。
なお、この記事は2018年10月現在の情報をもとに作成しています。介護に関する法律はしばしば改正されているので、実際行う際は最新の情報をチェックしてください。
参考:
大田区ホームページ「高齢介護サービス費の支給」 「介護保険料」
厚生労働省「月々の負担の上限(高額介護サービス費の基準)が変わります」